湯川潮音はオリジナルアルバム三枚はどれも全部しっかり聴き込みました。特に好きで一番沢山聴いたのはセカンドアルバム「灰色とわたし」(いつ見ても凄いタイトルです)です。その達観した視界と全編ロンドンでレコーディングしたという音像の生々しさに引き込まれました。
会場は早稲田奉仕園スコットホール。1921年に完成した由緒ある美しい建物です。私の通っていた早稲田大学戸山キャンパスのすぐ目の前にあるんですが、在学中こんな建物の存在に全く気がつきませんでした。思わず外観をじっくりと見てしまいました。中もマカオで入った古い教会のようで、ステージを歩くとみしみしいうような感じなのですが雰囲気がとてもいい。
基本的にチェロとピアノ(もしくはアコーディオン)と彼女自身の弾くエレガットギターというアンサンブルですが、思っていたより全然三者の絡みが高度かつ対等で、時々現代音楽のように響きます。湯川さんはガットギターを置きぶらぶらとハンドマイクで歌ったり、ハーモニカやブズーキ?やその他数えきれない見たこともないような楽器をとっかえひっかえしながら自由な小鳥のように音楽と戯れます。声量が物凄くあるというわけではありませんが、声を出すとすぐにそちらに注意を向けざるを得ないような吸引力があります。MCはたどたどしい感じなのですが曲が始まると全く表現にブレがなくなります。「緑のアーチ」「ツバメの唄」のような名曲から「お客様相談センター」について歌ったというナンセンスソングまでがそんな感じで演奏されます。私の好きな「どうかあしたは」も演奏してくれたので嬉しかった。
心に残ったのは60年後の自分について歌ったという曲(タイトル失念)と「理由」という曲。この二曲では目頭を押さえている人もちらほらいました(私もそうです)。
湯川潮音の音楽はほんとに2013年の音楽から隔絶されており、ほとんど横文字というのを使ってはいないのに日本のフォークからの影響というのをあまり感じません。様々な国の音楽からの影響はあるのでしょうが、本質だけ抜き取って丁寧に自分にしか出来ない言葉、それも誰にでもわかる言葉で歌っているというところに才能を感じます。ただの「癒し」ではなく、「死」や「消滅」のイメージも含めて自然に歌われるため、思わずドキリとする瞬間がライブ中何度も訪れます。目覚めよと歌っているかのように。しかも押し付けがましい訳ではない…というところに表現者としての誠実さを感じました。
アンコール最後はボビー・マクファーリン「ドント・ウォーリー・ビー・ハッピー」を楽しく演奏して終わりでした。
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