高校生のときに「ラブレス」を聴いてヤラれてから(人の道を踏み外してから)ずっとファンであるマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(以下マイブラ)のライブを観てきました。初めに言ってしまうと、私が経験した中でも最高のライブであり、この日を境にマイブラが特別なバンドになりました。
2月10日。新木場へ向かう前に、湯島の「デリー」で店で一番辛いカレーであるカシミールカレーを食べて気合いを入れる。そういえば去年ザ・ゾンビーズのライブを観る前も同じように下北沢の「茄子おやじ」でカレーを食べたんだった。「気合い=カレー」というのもイージーな発想ですが…。
有楽町線に乗り、新木場へ。アガってきたー!!
噂には聴いていたけど、耳栓が配布されるとのこと。音楽のライブなのに耳栓という矛盾。唐揚げにレモンかける、みたいな…。
外のコインロッカーに荷物を預けて待っているとすぐに入場できました。やや前のど真ん中でハイネケンをちびちび飲みながら演奏が始まるのを待ちます。お客さんは30代〜40代ぐらいの人が多かったな。
6時過ぎに静かなSEに乗せて4人が登場。サイケデリックな映像に合わせ、あの印象的なリフで"I only said"が始まる。私もマイブラの中で5本の指に入るぐらい好きな曲です。耳栓なんて配ってるぐらいだから恐ろしい音圧で始まるのかと思いきや、そこまででもなくちょっと拍子抜け。それからあまりにもギターの音がデカすぎて声が全然聞こえない。ベースの音は終始ビリビリと恐ろしい音を出している。そして2曲目"when you sleep"の凶暴なギターノイズが聞こえてきたときにこの日初めての鳥肌が。
セットリストなどは検索すれば幾らでも出てくるので省略しますが、やはり私はどうしても"loveless"に思い入れがあるので"come in alone""to here knows when""only shallow""soon"がぐっと来ました。特にこの中では"soon"が良かった。全体的に思ったのは、マイブラってシューゲイザーとかネオアコというよりは断然パンク・バンドなんだな、ということでした。初期の曲とか"Isn't anything"の曲とかを演奏してると特に強く感じました。レポートを見ると演奏やり直しなどもあったようですが、この日は一曲も演奏やり直しはなし。
ビリンダの美しさは息をのむほどでした。声も幼い感じで、ゲルマン系の可愛らしい白人の女の子がそのまま大人になったかのよう。私の母親と言ってもいいぐらいの年齢(50代前半)のはずなのに…。よくいるロック姉ちゃんという感じではなく、痩身で聡明で神経質そうで、時々額の汗を拭いながら演奏する様子はむしろ英文科の教授のようでもあります。会場からの声援に恥ずかしそうに俯きながら笑っています。ケヴィンも含め、四人ともごくごく普通のイギリス人というルックス。しかしそんな彼らが容赦ない真っ白いノイズを叩き出すのです。
ライブは淡々と進み"you made me realize"の演奏が始まります。ここからバンドはそれまで演奏していたバンドとは全く異なるバンドに変貌します。前半の甘いギターポップバンドはただのフェイクであり、ここからがライブの本番だったのでしょうか。騙された、とすら思いました。私は最初何が起こっているのかわからなかった。会場中の空気が恐ろしいほどの音を立てて振動しながら膨張し、地響きが起こり始めます。霞んでいく視界の中でケヴィンはもっと音を上げろと舞台袖に要求。私の今まで聴いた中でも最も大きな音が轟き、このあたりから平衡感覚が失われ始めます。いや、もはや聴いているのが音なのかどうかも判別できなくなってきます。女の子は数人失神か卒倒かして担ぎだされます(たった1時間半のライブなのに!)。そういえば一人小学生ぐらいの女の子がいたけど、あの子はどうなったかちょっと心配になりました。私自身もこのままだと殺される、とちょっと思いました(ホロコーストと呼ばれているそうな)。しかしどうしても音を止めてほしくないのです。音圧による延々と続く爆風で私の身体は仰け反り、立っているのもやっとの状態に。もはや耳栓をもらったことも忘れていました。眉間には皺がより、口は開きっぱなしで涎が垂れそう。「2001年宇宙の旅」のワープのシーンのような状態。私はずっと目を瞑っていたのですが、満天の星空のことをずっと考えていました。
一体どれぐらいの時間が経ったのかわかりませんでしたが(18分ほどだったらしい)、演奏は急に元の"you made me realize"に戻り、最後も少しだけ凶暴なノイズを立てて終了。1時間半のライブが終了しました。こんな経験も初めてですが、会場の中誰もアンコールを要求しなかった。私もそうですが、ほとんどの人がアンコールを要求することすら忘れてしまっているようで、口をあんぐりあけて放心したように突っ立っていました。もはや観たでもなく、目撃したでもなく、一つの宗教的な儀式を経験したような状態でした。確かにspiritualizedのノイズも凄かったですが、これとは比べ物にならない。
聞いた話ではケヴィンは持病の難聴を抱え、ビリンダは一度鼓膜に穴が空いたことがあるらしい。しかし見た限り彼らにはノイズに対して一切躊躇いは無かった。むしろ嬉々としてノイズに没入していくところがあった。狂気、と言ってしまえばそれまでだけど、やはりそれだけではなく、彼らもまたノイズを通してしか伝えられない何かがある、と完全に信じ込んでいて、文字通り自分の身体を削ってでも伝えなくてはならないと考え込んでいる人たちなんだろうと思いました。湯浅学氏の言葉を借りれば「ノイズはノイズ言語でしゃべりつづける」のだから。そしてそれは言葉という形では全く伝えることができないし、YouTubeの動画でもわからないし、ライブに行って「経験」するしかないのであろう、と彼らの寡黙な姿を見て思いました。
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