(前回の続きです)四年の歳月が経ち、戸田で再びカブ熱の上がった私は順調に(若干汚い手を使って)原付免許を取得し、新宿の明治通りのバイク屋の二階で見つけたノースマリン号を契約しました。
待ちに待った納車の日。私は意気揚々とヘルメットを抱えて店に赴きました。南浦和で後輩に教わったときと同じように、店の裏の路地でバイク屋の店長にリトルカブの乗り方を教えてもらいました。何回か路地を往復して、それではもう大丈夫でしょうということになりました。
私はそのころ杉並の明治大学の近くに住んでいたので、その店からは明治通り→甲州街道という、バイク初心者にしては相当な冒険をしなければ帰れませんでした。一度もやったことが無い二段階右折もバッチリ決めなくてはいけない。覚悟はしていましたが、いざとなると恐ろしいです。でもしょうがない。怖がっていたのではいつまで経っても乗れるようにはならない。
店長に挨拶をしてからカブを押して明治通りの反対側に渡り、エンジンをかけました。注意深くタイミングをはかって、車の流れが切れたところで明治通りに飛び出しました。身体中ガチガチに強張っています。教わった通りにシフトチェンジし、三速に入れるとぐんぐん加速し、目に映る街路樹や新宿のビル郡が、今までに体感したことの無いスピードで後方に光の束となって飛んでいきます。この瞬間頭の中で確かに煌くものがありました。巨大なスイッチが私の中でOFFからONになったかのような…それは私のかつて味わったことの無い類の歓びでした。ひょっとするとこれさえあればどこへだっていけるのではないか?という啓示のようなものが、身体の中を突き抜ける感じがしました。顔だってほんとにニヤーッとしていたと思います。
南浦和でカブに乗せてもらったときも、原付の免許を取るときスクーターに乗ったときも、カブを買った後で中型二輪の免許を取るためにCB400SFに乗ったときもこういった感情は一切湧き上がってはきませんでした。初心者なのに交通量の多いところを走らなければならないという緊張感が影響したのでしょうか…。それとも私とカブという乗り物の波長がもともと合っていたのでしょうか…?そのときの気持ちは今でも確かに私の中にあり、それを反芻するためにカブに乗り続けているのではないか、とふと思うことがあるのです。
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