90年代、私に一番大きな影響を与えた人物の一人…と畏まって言うよりは、私の敬愛する音楽家の一人である小沢健二の、東京オペラシティ@初台でのライブを運良く観に行くことができました。前回行ったのはなんと16年前、彼がニューヨークへ雲隠れする前の96年武道館でのコンサートで…姉と観に行きました。私は当時高校1年生で、時期的にはアルバム「ライフ」と「球体の奏でる音楽」の間で、彼の創造性が最も高まっていた時期であり、とても美しいライブでありました。ソウル・レビューかサーカスか、という雰囲気で、メディアでいえばレコードだけが持つ、アナログの音楽の勢いが大切にされていました(余談ですが、当時私は小沢健二は最先端を突っ走ってると思っていたのですが、「ライフ」など聞き直してみると、当時彼ほど頑固にアナログのレコードのみがもつ質感にこだわっていた人はいなかったのではないかと思います)。そのときのライブでは階段に座ってサファリの動物たちの風景を背景に「天使たちのシーン」を歌ったときの感動を覚えています。
小沢健二の音楽の素晴らしさ…というのは、有り体な言い方になってしまいますが、結局はその「色褪せなさ」に尽きるのではないでしょうか。彼が90年代世に問うた「犬は吠えるがキャラバンは進む」「ライフ」「球体の奏でる音楽」の三枚のアルバムは、当時私はその全体を気に入ることはありませんでしたが、幾つかの曲は燦然と輝く楽曲のように思えました。しかし何度も何度もそのアルバムを聴くうちに、最初は気に入ることの無かった一つ一つの楽曲の魅力と、アルバムを補完する役割に気づきます。そのようにアルバムの欠けていたピースが一つまた一つと埋められて行き、アルバム全体が燦然と輝く創造物であったことに気づく…彼の不在の16年間というのは、私にとってはおおまかにそういう時間でした。それに対し90年代の他のアーティストの多くの楽曲は、悲しいことに、その音楽自体の輝きを少しずつ失なって行きました。
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そんな思いを抱えつつ、初台のオペラシティーにやってきました。ボックスセット「我ら、時」も大枚はたいて購入し、予習も十分です。私はここから数駅先の代田橋に住んでいたので、京王線に乗るのが懐かしかった。オペラシティーのタケミツメモリアルホールは、小沢さん自身も言っていたようにまるでメトロノームのような形をしていました。素晴らしいコンサートホールです。ちなみに三階席でした…まあ、観れるだけラッキーなので全然文句は言えません。
ステージ上のセッティングはいたってシンプルなもので、弦楽四重奏が入ることはわかりましたが、あと数人ぐらいしか演奏しないようです。うーん、「ひふみよ」みたいな感じではないのか?これはちょっと肩すかしだった。
どこの国のものともわからぬ民族音楽のようなSEが止むと、ステージ上に置かれた何台ものメトロノームの音だけになります。そのメトロノームが一つまた一つと止められて行き、最後にたった一つのメトロノームの音だけが残ります。それをゲストの「ハナレグミ」の永積タカシが止め、彼の朗読によりライブが始まりました。これは全くのサプライズでした。この二人の絡みって見たことなかったので。
永積タカシの朗読が終わると、いよいよ小沢健二が登場。真っ白いシャツと黒いパンツ。体型は驚くべきことに16年前とほとんど変わらなかった。足が長いなあ。大歓声が上がります。
彼のギター弾き語りによる新曲「東京の街が奏でる」からライブがスタート。座ったまま弾いているのですが、声量がかなりあって、驚きました。小沢健二ってこんなに声が出る人だったのか。
ライブは真城めぐみさんによるコーラスと、中村キタローさんによるキーボード+ベース、それから弦楽四重奏団の7名によるアンサンブル。最初は「これで最後までいっちゃうのか。物足りないなあ…」と思っていましたが、だんだん慣れてきました。小沢さんも終止座りっぱなしでしたが、アコギとガットギターをとっかえひっかえしながら足を高くあげて踏みならし、凄いテンションでした。どうせなら立って演奏して欲しかったですが…。それから朗読のときも、「ひふみよ」のCDのときとは異なり、かなりリラックスしているように思えました。お客さんはこういうコンサートホールで煽られたときどういう対応を取ればいいのか、とかなり戸惑っているようでした(私も戸惑いました)。
曲目は90年代の3枚のアルバムのうち「ライフ」を中心に、「eclectic」からも数曲、新曲も数曲という感じでした。「今夜はブギーバック」では小沢健二自身がラップも担当。珍しい!特に心に残ったのはやっぱり「ある光」。最後に客席にばーっと光が灯ったのは感動しました。この曲のみエレキギター(確かストラトキャスター)を使用。あと「それはちょっと」も背景の花火の映像と相まって美しかった。もちろん「天使たちのシーン」も美しかった。歌詞や節回しは「ひふみよ」ツアーのときと同じようでしたが、ストリングスのアレンジと、水面に反射する光の映像が綺麗でした。
アンコールでもう一度永積タカシが出て来て、「いちょう並木のセレナーデ」を二人で歌い、3時間半に渡るライブが終了。これだけライブとライブの間隔が開くこともまあしょうがないのかな…と納得できるライブだったように思います。
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